エビ(シュリンプ)の遺伝を考えるときにヒントになるかもしれない話

(この記事を読むには約10分かかります。)

はじめに

ヒトの染色体は23対ある。
その23対の染色体を構成しているDNAの鎖の中に遺伝子が存在する。
ヒトの遺伝子数には、諸説あるが、2万数千存在するそうだ。

エビの染色体はというと、100対以上あるという。
遺伝子の数は分からないが、犬やニワトリで約2万。ミジンコでは3万以上だという。
そうしたことから推測するに、エビの遺伝子もおそらく2万から3万の間くらいに納まるのではないかと考えられる。

いろいろな遺伝子がズラッと2万~3万あるわけだが、これらの中から意図した遺伝子を狙って固定していくわけだ。
想像するだけでも難解で、手間のかかるプロセスに思える。だからこそ面白いのだと思う。
少し、そのヒントにつながるかもしれない「お話し」をしていきたい。

DNA

(参考ワード)
 染色体…DNAとこれに結合しているタンパク等が凝集して形成された「構造体」
 DNA…生物の遺伝情報(ゲノム)を構成する「物質」
 遺伝子…タンパク質など情報の「配列」。即ち意味を持ったDNAの配列のこと

ラットの交配

近交系マウス

実験用マウスに「近交系マウス」と呼ばれる種類がいる。

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近交系とは、主に兄弟姉妹同士との近親交配を20世代以上継続して得られた、遺伝子的なバックグラウンドを揃えた動植物の系統のことである。近交系は、特に実験動物において個体差を少なくするために用いられる。近親交配を20世代以上繰り返しているために、近交系の個体は0.01%のヘテロ接合の遺伝子しか持たない。そのために、遺伝的にはほぼ同一の個体であるみなすことができる。(wikipediaより)

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20世代以上、近親交配を重ねることで、血縁関係が99%以上の‘ほぼクローン’といえる個体群を作り出せるということである。当然、近親交配を続けるわけなので、欠点もでてくるそうだ。繁殖能力不全や遺伝的疾患。
そういったものを乗り越えたものが近交系となるそうだが、表面上異常はなくても、欠点はいろいろ出てくるとのことである。

エビの繁殖サイクルが3か月とすれば、20世代の交配にかかる時間は約5年。
うまく繁殖が続けば、5年後にはほぼクローンの個体群を作出できることになるわけだが、必ずしも狙った個体を作出できるわけではない。近親交配による血の弊害を回避しながらも、狙った形質を遺伝させていくためには別の方法が必要となる。

(参考文献)

近交系誕生:なぜ20回以上の 兄妹交配が必要なのか?

http://www.anim.med.kyoto-u.ac.jp/Kuramoto/contents/ExpAnimGenet_1_inbred.pdf

クローズドコロニーマウス

実験マウスには「近交系」以外にももう一つ「クローズドコロニーマウス」という種類がいる。

これは、5年以上外部からの血を導入すること無く、一定の集団内で繁殖を続ける群の事である。
「近交系」と違い近親交配だけに頼らないので、遺伝的疾患が出にくいといえるだろう。その分、遺伝的共通性は弱まる。
計画的なランダム交配を続けていくことで、1匹1匹には遺伝的共通性がなくても、集団全体では遺伝的共通性があるという状態を作り出す。

マウスの性成熟は約2か月であることから、5年間で約30世代。
これくらいの交配を重ねて「クローズドコロニーマウス」と呼ばれる。
シュリンプで考えれば、約6~7年といったところだろうか。

mausu

自分の血統と呼べるまで…

「近交系」と「クローズドコロニー」の定義からするすると、シュリンプにおいて自らの個体群と自信をもって言ってよいのは外部の血を使わずに最低でも5年以上の交配を続けた場合といえるかもしれない。

我が家のシュリンプ達はというと、外部の血を遮断してからまだ1年半くらいなので、他のブリーダーの影響が残っていて、自分の血統とはまだ呼べないということになる。トホホ・・・先はまだ長い。

和牛の交配

蔓牛

「蔓(つる)」という言葉をご存知だろうか。

牛の畜産に関する用語で、「蔓」とは、特性がよく固定化され斉一性が高く、優秀な形質を持ち、かつその遺伝力が強い牛群のことで、その牛群の牛を蔓牛という。いわゆる「系統」と通じるような意味を持つ言葉だ。

松阪牛や神戸牛、近江牛。おいしいですよね。それらの牛の祖となっているのが「但馬牛」だそうです。
前沢牛・仙台牛・飛騨牛・佐賀牛など多くの黒毛和種に「但馬牛」の血が流れているそうです。

兵庫県の但馬地区は、険しい山と谷に囲まれており、 他の土地にいる牛との交配が困難だったので、その谷の中だけで交配が続けられていた。これが偶然か必然か、 優れた遺伝子が良い形で引き継がれる結果となり、但馬牛の系統を確立する要因となったのである。

これって水槽の中の状況とよく似ている気がする。

beef-lab.comからの抜粋

http://beef-lab.com/?p=417

現在の黒毛和種は他の品種と違い、細やかな血統管理がされていることが特徴の一つと言える。
例えば、兵庫県の但馬牛であれば、昔は交通機関も発達しておらず、険しい山を越えて交配することは
できなかったので、その地域、地域にいた特色のある牛を「蔓(つる)」とし、良い資質を持った血統を
維持していこうとしていた。蔓の中でも「あつた蔓」、「ふき蔓」、「よし蔓」が3大蔓牛として有名である。
ちなみに、この蔓牛は雌の血統の集団であり、雄牛の存在は雌牛ほど重要視されていなかったようだ。
しかし、人工授精技術の発展とともに血統の改良は雌牛から雄牛へと変化していったようだ。これは雌牛が生涯に
出産できる頭数が10頭程度だとしても、精液ストローと呼ばれる容器を使用した人工授精であれば、
1頭の優秀な雄牛からは1万頭以上の子牛を生産することができるからであろう。
また、ストローによる人工授精の発達により、遠方の雄牛の使うことが可能になった。
これにより雌牛の集団としての特質が薄らいでいき、蔓としての集団での管理は衰退したようだ。
一方で、人工授精技術の発達と偉大な種牛が登場するようになり、「血統」として管理されるようになった。
有名な系統であれば「中土井」、「熊波」、「城崎」等がある。
これら「蔓」や「系統」に関しては、より研究を進め、このbeef-lab.com上で報告したい。

そして、この雄牛による血統管理によって、全国のブランド牛、黒毛和種は発展をしていったのだ。
そんな血統改良において、重要な役割を担った黒毛和種の始祖牛と言える三大血統を紹介したい。
現在我々の口に入る黒毛和種の中で、この三大血統が1つも入っていないものは、ほぼないのではないだろうか。

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写真は「田尻号(昭和14年撮影)」

ブリードへの示唆

遺伝学もなかった200年も前の時代に「蔓」は、
1.根気よく、よい雌牛を選抜(選別)
2.近親交配を行って、優良遺伝子のホモ化推進(近親交配・戻し交配)
3.2頭の種雄牛を選抜して、生まれた子牛を交互に交配して近交による障害にも配慮して作出(近郊退化の抑制)
と現代に通じる交配理論を駆使していたのは驚きだ。

シュリンプの場合、小さな生き物なので、人為的に環境を作ることは(牛と比べれば)比較的容易なので、オス・メスそれぞれの選抜、世代ごとに血の管理は水槽本数さえ許せば実行できるだろう。そうして、時間をかけて固定化していくのが楽しみの一つなのだ。

交配の基本

大きくは3つの交配法を意識しておけば大丈夫である。
「インブリード」「ラインブリード」「アウトブリード」

インブリード

極近親交配。近親(親と子・兄弟・姉妹などの血縁関係がとても近い)での交配。
形質が遺伝されやすいが、一方で、矮小化・繁殖不全など欠点が出やすい。
インブリードの中でも特に、縦のライン(親と子、祖父母と孫など)の交配をバッククロス(戻し交配)と呼ぶ。
(業界によっては、インブリードを横のライン、バッククロスを縦のラインと定義している)

ラインブリード

遠近親交配。インブリードよりは遠い近親(孫×孫、孫×ひ孫)での交配。インブリードによる弊害を抑えられる安全な交配といえる。ただし、沢山のクロスを有する場合はインブリードと見なされる。

アウトブリード

系統外交配法。父母間でインブリード・ラインブリードを発生させない交配。
インブリード・ラインブリードしてきた個体に外部の血を入れるということ。
血を薄めることで体質の改善がすすむが、一方で形質の棄損が起きる。

アウトクロスブリード

系統間交配法。複数世代、遡っても全く近親交配がない状態。
シュリンプのブリードにおいてはほぼ無いと思われる。

ブリードへの示唆

マウスの「近交系」はインブリード、「クローズドコロニー」はラインブリードであるといえる。

シュリンプ飼育においては、手を加えなければどんどんインブリードが進んでいくため、稚エビを別水槽に取り分けたり、「A血統」「B血統」と分けて飼育し、時折、それらを混ぜたりするなどして、極端な近親交配が進まないような工夫をしている方も多い。

たとえば、「A血統」「B血統」とわけるとき、「A血統」は色が濃く、「B血統」は体躯が大きいというように分けるような例をよく見かける。
(そういう分け方も一つの方法としてある、事実、牛の場合は「肉質系」と「増体系」に大分されている)

しかしながら、色の濃い個体を作りたいという強い目的があったとすれば「A血統」「B血統」ともに色が濃いという特徴で
あっても構わない。「A血統」のインブリードが進みすぎたときには、「B血統」を混ぜて、体質改善を図りながらもなるべく色が濃いという形質を損なわないようにすることができるかもしれないというわけだ。

どのように血統を分けて管理していくかに答えはなく、このあたりの妙味がブリードの上手さの秘訣かもしれないと
思ったりしている。

血統の繁栄と偏り

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今のレッドビーシュリンプの傾向として、中部系の血統が主流となって活躍しているように思われる。
色・体躯ともに完成度が高く、なおも切磋琢磨しながらレベル向上に努められている。
そうした血統が全国に散らばり、それぞれの地域でアウトブリードされたり、インブリードで繁殖されたりしている。
今後もこの傾向はしばらく続くと思う。

ただ、和牛(黒毛和種)においては、ひとつの血が飛躍的に発展したため、似た血統が多くなり、次の改良が進みにくい状況になっていたり、競走馬においては、サンデーサイレンスという種牡馬の血統が繁栄しすぎたため国内馬同士での交配において制約が多くなったりするなどしている。

一つの血の発展はレベルの底上げに多大な寄与がある一方で、そうした制約を生むことにもつながるのである。
もともとが数匹の突然変異個体から始まったレッドビーシュリンプなので、仕方がない面もあるが、初期のころに分かれた血統がもう一度再活性する日が来るかもしれないのも血統のロマンだったりする。

また、全てが血統だけでは語れないという例もある。「キツネの家畜化実験」などはその一例だ。
面白いので是非読んでもらいたい。

(参考文献)

人懐っこいキツネを交配し続けたら犬っぽいキツネが誕生した話

http://matome.naver.jp/odai/2140793071505601701

生き物は不思議で面白い。

まとめ

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1.シュリンプの遺伝子もヒトと同じくらい多様で2万~3万あると見込まれる。
2.5年以上にわたって自家繁殖をした場合、そのブリーダーの特徴が遺伝的に表れた個体群になる。
  (さすがに5年は長すぎるのでF2くらいからは自分の屋号をつけている人が多い)
3.交配の基本は、「選別」と近親交配による「優良遺伝子のホモ化」。
  なおかつ「近郊退化を抑制する」計画的な交配。
4.基本用語の整理。「インブリード」「バッククロス」「ラインブリード」「アウトブリード」
  「アウトクロスブリード」
5.一つの血統が繁栄すればするほど、目を向けられていない血統にも繁栄のチャンスが出てくる。

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